わたしのたべかた

とるにたらないこととくだらないこと。

好きなサシ劇台本

質問箱に投げられた「好きなサシ劇台本はなんですか?」をみて、とてもじゃないけど文字数に収まらなさそうだったのでゆるりと書いてみようかなと。

一部、ブラウザで読めない台本もあるのですが、好きな作品としてどうしても並べたいものは気にせず名前を出しています。

説明下手なのですが愛だけはあるので許してくださいな。

(規約に記載のないサイトさんの台本は、一部台詞を引用していますがダメだったら教えてください…)

 

■不帰の初恋、海老名SA(作:坂元裕二

1:1/120分/朗読劇/手紙/すれ違い

カルテット、最高の離婚東京ラブストーリーなどテレビドラマの脚本家として有名な坂元裕二さんの朗読劇台本。「往復書簡 初恋と不倫」のうちの初恋のほうですね。かえらずのはつこい、と読みます。

初恋の人から不意に届いた手紙。時を同じくして目にしたニュースでは、彼女の婚約者が運転する高速バスが横転事故を起こし、運転手は逃走中だと報じている――。

忘れてしまうということ、手に入らなかった(手に入ったかもしれなかった)もののこと、言えなかったこと。そういうことがすごく丁寧に描かれている作品だなと感じます。好き。

玉埜くんが疑問に思うだろうことは十分承知しています。

そうですね、合理的に説明出来たらいいのにと思います。

冷蔵庫の機能を説明するみたいに、炊飯器の機能を説明するみたいに、

わたし自身の機能を説明出来たらいいのになと思います。

わたしには可愛い犬を見て、可愛いな~と思う機能があります。

花束なんかをもらって綺麗だな~と思う機能があります。

人を愛する機能はありません。これは抽象的な話じゃありません。

わたしは、他人の体を受け付けることが出来ません。

桂木さんの体を受け入れたことは一度もありませんでした。

手に触れたことさえありません。理由はわかりません。

たとえば子供の頃の傷みたいなものがあるとしても、

その自覚はないから、

わたしはもう、どうしてなんだろうと思うことをやめてしまいました。

炊飯器にだってタイマーのないものはある。それは元々そういうもの。

そんな風に思うことにしています。

なのにわたしは桂木さんとの結婚を望みました。許されないことでした。

おやすみなさい。  

 

きっと絶望って、ありえたかもしれない希望のことを言うのだと思います。

三崎さんの手を握ることは出来た。

だけど大切なことは、握ることじゃなく、放さずにいることだった。

三崎さんのことが好きでした。それじゃ。

1つめが三崎さんの、2つめが玉埜くんの1番すきな台詞。「絶望って、ありえたかもしれない希望」という表現に、坂元裕二さんの言葉の秀逸さが滲んでいるなあと思います。平伏した。

 

■錫色のベール(作:羽白深夜子)

https://www.salome-neige.com/

1:1/20分/兄妹/元同級生/結婚前夜

わたしが深夜子さんを知るきっかけになった、台本コンテストにも出されていた一作。やっぱりすごくすごく好きで、1本だけ選べといわれたらこの作品を挙げてしまう。紗弥の結婚式の前日のふたりの会話。深夜子さんの台本のすきだなあと思うところは、台詞の奥に感情が潜んでいるところ…!それが美しくて切なくてたまらなくって大好きなんですけど、この錫色のベールも最高なんですよね… 人の言葉はさ、そのままの意味を持たないことの方が多いから。キラキラした台詞が多いようにみえて、深夜子さんのすごさは、そこに奥行があるところなんだな。ここのシーンをやるとき、いつも泣きそうになる。

隼人:紗弥。
紗弥:なぁに?。
隼人:ピアスの意味、知ってる?
紗弥:……知ってるよ。 隼人って、気障だよね。
隼人:お前のは、旦那に買って貰えよ。
紗弥:……お休み。 明日は寝坊しないでね。
隼人:妹の結婚式に寝坊する程腑抜けじゃない。 お休み。

ああ……わたしは羽白深夜子先生台本の男が本当にすき…(愛が溢れすぎて死にました)

キザでなく、気障なのもいいよね。腑抜けじゃない。いいよね。ワードチョイスがすきだ。音として口にしても、聴いても心地よいのに、目でも楽しめる。これが深夜子さんの魅力。ひとりの作者さんにたいしてひとつにしようと決めたので錫色のベールをあげましたが、よく上演しているのをみる「僕は幸せに恋をする」は映画のような構成力の鬼だし、「eclat et rose」「eclat de cocon」 は童話のような世界観にうっとりする。アミューズメントチャイルドだけやったことがないので、わたしのショタに耐えうる精神をもった男性がいたらご一緒してください。

 

■マシーン阿良川(作:ススキドミノ)

http://doodletxt.web.fc2.com/

1:1/16分/会話劇/死/ほんのりとした悲しみ

元同級生の葬儀後に、久しぶりに会うふたりの会話。ドミノさんの作品は好きなものがたくさんあるんだけれど、断トツで好きなのがマシーン阿良川。人におすすめされてはじめてやってからずっと好き。お話もさることながら、自由度の高さもすきな理由のひとつです。相馬、篠、そして阿良川。主に3人の人物がでてくるんですが、3人がどういう関係性であったかの読み解きがかなり読み手に任されている、と思っています。もちろん指標になる言葉はたくさん落ちていて、でもそこからどう想像を膨らませるかがすごく楽しいし、相手の演者さんがどういう風に解釈してるのかなあ、と考えながら掛け合っていくのが楽しい。空気感のある台本なんですねえ…すきだなあ。「許されないのかな」について悶々と考えたいよね。やる相手によって悲しみの深さも意味もまるで違うものになるのがおっもしろい。最近覚えた楽しみ方は、「篠ちゃんには自殺した兄がいる(という勝手な設定)」でやってみる、です!楽しい!

 

■狂獣の檻(作:たかはら たいし)

http://doodletxt.web.fc2.com/

1:1/40分/会話劇/人殺し/恋人

なんてことない、同棲している恋人の会話。のようにみえて、彼女は人を殺すことが大好きな女の子。月に1週間だけやってくるあの瞬間だけ、どうしてもその衝動に耐えきれない。こうして書くと女の子のほうが難ありにみえるんですが、「僕は檻なんです」と語る君、そうそこの君のほうが実はずっと問題ありだとわたしは思うぞ。だいすき祐次くん。物語は二人の日常パートと、インタビューパートを交えながら進んでいきます。こういう、なにも動いていないまま終わる話がね、大好き。サシ台本として紹介していますが、インタビュアーを別の人にやってもらって1:1:1の形態でやることも珍しくない台本ですね。ここはお互い交互に読んだり、もう一人呼んで読んでもらったり、読まなかったり、表でやる時は実際に字幕として文字を流したり、人によって結構かわるのかなあ。狂獣の檻は四部作(といっていいよね?)で、無印・廻答・真廻・帰結があって、公開されているのは真廻をのぞく三作です。いずれもdoodle.txtに掲載されています。有難いことに一通りやったことはあるのですが、やっぱりわたしは無印がすき!でも、檻がすきだな~って人には一通りやってほしい欲もある…パラノーマンズブギーシリーズと一緒ですね、全部知った上で①をやると昂ぶるよね~~~っていう。個人的に、里菜が人を殺したことが(我慢できたと嘘をついていたことが)バレて、「もうやっちゃ駄目だよ」と祐次に言われ、しばらく沈黙が続いたあとの「こないだのアイスさ、食べない?」の祐次が最高にすきです。ここに、わたしが檻をすきな理由が詰め込まれている。

 

Apollo(作:紫檀

http://doodletxt.web.fc2.com/

 1:1/40分/SF/人工知能/近未来

近未来というワードであっているのか…?知識がないので許してください。土下座しますので。みんな大好きApollo…SF、全っ然詳しくないんですけどめちゃめちゃ好きなんです。意味わかんないでしょ?でも好きなものは好き。人工知能?すき!!!!という、好きなワードが詰まったApollo。アポロと呼ばれる人工知能と、「測定」を繰り返す少女のお話。紫檀さんの台本はいつも映像が見えるなと思うんですけど、Apolloは特にそう思う。ト書きが美しくって、台本としても好きだけどよみものとしても読んでしまう。これ男性、すっごく難しいんだろうな、わたしだったらできないな…とやる度に男性演者に心のなかで拍手するんですけど、シオンもね難しい!全然台本を読んだときにみえたシオンができない!でもはっきり理想があって、どうしてもたどりつきたくて、やる度に「劇レベルをあげたらまたやろう…」と遺言を残し、一度灰になります。すっごくやりがいのある台本。お話としてすごく綺麗でエモくて好きで、Apolloをやった影響で「インターステラ―」というどっしりSF映画に手を出しました。面白かった…映画みたあとにまだできてないのでやりたいです。もっともエモい指数が(わたし的に)高いのは、ビデオレターのシーンです。ここのシーンをもとに、誰とやりたいな…と考えることが多い。1回人のApolloを聞きたいんですけど、自分が1回(自分のシオンに)満足しないと絶対影響されるから聴けなくて、でもみんながどんな風にやるのか知りたい~~~と駄々をこね続けています。自分が演じる上では苦手なタイプの役なんですけど、台本がすきすぎてつい入れてしまった台本No.001…

 

サンクチュアリ・サラダ(作:後藤雄一)

http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Kouen/4257/scen/scen5.html

 1:1/60分/会話劇/絵描き/死んだ恋人

死ぬほど大好き後藤雄一さん。基本的に台本や戯曲は、ストーリー性より会話文や台詞に注視して読むんですが、台詞のセンスが最高にツボ。サンクチュアリ・サラダは、大学時代の元同級生のふたりが再会して、男は彼女とうまくいってなくて、みたいな。しばらく女の家に寝泊まりするみたいな。オーディナリー・デイズの男女逆みたいな設定なんですけど、サラダのほうがじっとり汗ばむ感じがする。汗って、風が通るとゾクッとするほど冷たいしね。佐和子は絵を描くことを仕事にしていて、彼らの共通の友人であり彼女の恋人だった真一くんは映画を撮る人だった。女は才能に惹かれるよねとよく大学の同期と話すんですけど、真一のことを話す佐和子がすごく好きです。真一は天才じゃないよ。それは「深く知っている」からこそでる言葉だなあと思う。仕事をしている佐和子と、なんとなく暇な正樹がしりとりをするシーンとか、そういう何気ないシーンがすごく好きで。直接的ではない台詞がとても多いので、佐和子をどういう風につくるか、いつも遊べてすきです。

佐和子「奥村君てさぁ・・・。」
正樹 「ん?」
佐和子「目のあたりとか結構、真一と似てるね。」
正樹 「そっかぁ?」
佐和子「なんとなくだけど。」
正樹 「真一の服着てるから、そう見えるんじゃねぇの?」
佐和子「・・・かもしんない。」

 

正樹 「何にも知らなかったんだなって思ってさ。」
佐和子「裕美ちゃんが?」
正樹 「いや、俺が。」
佐和子「奥村君が?」
正樹 「望月と真一の事とかさ、あいつのこととか・・・。」
佐和子「・・・そう。」
正樹 「俺さ・・・。」
佐和子「ん?」
正樹 「あいつのあんな弱々しい声も、初めて聞いたよ。」

個人的に辛いシーン。佐和子をどうつくるかにもよるんですが(何度でもいう)。佐和子をどうつくるかは、はじめる前にぼんやり考えることももちろん多いけど、正樹がどうでるかにも左右されるんですよね。書いてるとやりたくなっちゃうな。客観的にみると結構どうしようもない二人なんですけど、人間なんてどうしようもないものですからね、大好き。